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3つのアポロ(月面着陸を実現させた人びと)

人類初の月面着陸から50年の記念すべき2019年7月20日前後は関連番組が多数テレビで放映されました。片っ端から録画しておいてお盆休みに集中して見ました。

番組はそれぞれ製作のテーマがあり、そのテーマを浮き彫りにするために周辺情報を無視したり反対に誇張したりあるいは時系列を若干いじったりしてしまうようです。

そのため一つの番組だけを見ているだけではそれなりに頑張って矛盾してないのですが、他の番組と並行して短期間に集中して見ているとその矛盾が気になって仕方がなくなります。

本当のところはどうなんだろう、と知りたくなったのでアポロ関係の本を買ったのが「3つのアポロ」でした。

宇宙飛行士はもちろんのことですが、アポロ計画を支えた管制センターと技術者・科学者をも合わせた3者による合同作業という意味を込めての表題のようです。

アポロ1号の悲劇を乗り越えて月へ人類を送り込むという悲願を達成したストーリーで多くの映像は構成されていますが、それだけじゃないことも多く知りました。また一方の競争相手のソ連においてのソユーズ1号の悲劇もあらためて知った次第です。

 

 

さて、多くの映像を見て矛盾に感じたのは、プログラムアラームに関してです。

 

 

人類が初めて月着陸に挑んだアポロ11号の月着陸船イーグルが、月面への降下中にコンピューターが突如プログラムアラーム1202を発しました。

このプログラムアラームについては、船長のアームストロングも月着陸船操縦士のオルドリンも、訓練でも経験したことがなく、その意味するところが全く分からない、という状況があります。

映像では地上のスタッフが短時間にそのプログラムアラームの意味するところ(情報過多によるコンピューターの過負荷)と、プログラムアラームが発せられても最重要のプログラム(月面着陸)は稼働し続けていることを了解し、

アラームを無視して月面への降下を続行するように回答したことで、月面着陸は無事に成し遂げられたのです。

これがアポロ11号の月面着陸における緊迫した場面として映像に残されています。

一方「アポロ管制センターの英雄たち」の映像を見ていると、地上でのシミュレータ訓練においてプログラムアラーム「1201」「1202」が作動したが、誰もその意味するところが理解できなかったために訓練を中止したという話が出てきます。

そして、この訓練の反省会で、訓練中止に至った条件が満たされていたのか、ということが問題となり、訓練中止を決断した首席管制官のジーン・クランツが返答できなかった、と語っています。

すなわち、「月面着陸時に発せられたプログラムアラーム1201及び1202は、訓練でも経験したことがなかった」とアームストロングやオルドリン、地上の管制官及びそのスタッフが語ったということは、

①プログラムアラーム1201及び1202が訓練で作動したにも関わらず、その原因も対策も講じなかった上に、

②シミュレータ訓練で経験したことを本番ではひとりも思い出さなかった、ということになるのです。

矛盾に満ちていて、意味不明です。

3つのアポロには、プログラムアラームが発せられた原因については、以下のように書かれていました。

そもそもコンピューターが過負荷になった原因はオルドリンが司令船とのドッキング時に使用するランデブー飛行レーダーのスイッチを起動させたことによるのです。

これだけですと、オルドリンが余計なことをして計画を危機に陥れたように聞こえますが、実はこの行動は地上の訓練からプログラムされていて、本番でもそのとおり行動していただけです。

それでは地上訓練でコンピュータが正常に働いていたのは何故なのでしょうか。

それはなんと、シミュレータのランデブー飛行レーダーのスイッチは偽物で電気的に接続されていなかったというのです。スイッチを入れてもランデブー飛行レーダーからは情報が入ってこないので、したがって情報過多になることもなかったというのです。

ここを読んで、

①シミュレータが訓練中に情報過多になることはあり得ない。したがって、シミュレータが自発的にプログラムアラーム1201、1202を発することはない。

②にもかかわらず、首席管制官ジーン・クランツはシムレーションで1201や1202を訓練したと証言しています。

謎は深まるばかりです。

とりあえずこの件は、解明の糸口が自然と降りてくるまで、まったりと待つことといたします。

副読本:宇宙からの帰還

 

単行本第1刷りは1983年1月です。アポロ計画の有人月面着陸は1972年12月のアポロ17号をもって終了したので、ほぼ10年後に立花隆氏により著された本です。

宇宙を体験した宇宙飛行士へのインタビュー形式により書かれています。宇宙で神を見たか?とは直接インタビューしていませんが、暗に「見た」「感じた」という回答を期待する問いかけになっているように思えます。

さて、この本に「副読本」という副題を付けたのは、アームストロングまたはオルドリンの口からアポロ11号に関して語られたことが載っていることを期待したからです。

月から帰還して10年も経っていない時期のインタビューならば記憶もまだ新しく、プログラムアラーム1201及び1202について正確な情報が得られるのではないかと思ったのです。

残念ながら、アームストロングについては、「さっさと象牙の塔に逃げ込んだ」と表現して終わり、オルドリンについてはインタビューに応じなかったにも関わらず様々な周辺情報に基づいて宇宙から帰還後の波乱万丈な体験が書かれています。

アームストロングに対する書きぶりは随分冷たいなぁ、と思ったと同時に、インタビューをしていないオルドリンについて多くのページを割いているのは、彼に対して非常に失礼だなぁ、と思いました。

ということで、月着陸船イーグルの月面降下時におけるプログラムアラームに関しての有益な情報は得られませんでした。

副読本:ファーストマン

この本はニールアームストロングの伝記です。2004年に初版が発行され、2018年に増補版が出ています。

プログラムアラームをめぐる謎については以下のように解明されたと思います。

アームストロングとオルドリンの地上シミュレーションではプログラムアラーム1202及び1201は体験していない。

シミュレーターは1201及び1202のプログラムアラームを自らは発していない。

③アポロ11号発射の数日前に、アポロ12号のバックアップクルーによる月着陸シミュレーションを行った。これは、月着陸時にミッションコントロールにつく管制官たちを訓練するためのシミュレーションで、このとき上司の指示でプログラムアラーム1201を発動した。

このアラームに対し的確な対処ができなかったために首席管制官のジーン・クランツは訓練を中断させた。

この時点でプログラムアラーム1201の意味と正しい対処法は管制官の誰にも分からなかった。

⑥訓練中断後の反省会で、1201の意味と正しい対処法が示された。

⑦その後、月面降下を中断して上昇モードに切り替えなければならない月着陸船のプログラムアラームが全て洗い出された。

⑧アポロ11号の発射直前に、ミッションルールにこの一連のアラームと対処要領が書き加えられた。

したがって、アームストロングとオルドリンは1202と1201の意味と対処法を知らなくて当然。

数日前の訓練に参加したジーン・クランツや管制官たちは、アームストロング船長の「プログラムアラーム1202」の言葉をきいたとき、「あれだ」と気がついても、詳細な処法については知らなかった。

バックヤードにいるソフトウェアチームのみが了解し、そして即座に対処した。

というのが一番真実に近いのでは と推測します。

このタイミングでの的確な訓練を実施した上司とは一体誰なのか?

有人宇宙船センター(現在はジョンソン宇宙センター)のシミュレーション・スーパーバイザーのリチャード・クーズ。宇宙飛行ミッションのコンピュータシミュレーションの権威としてヒューストンを代表する一人です。

本書を一部抜粋します。

「打ち上げが11日後に迫った7月5日の夕方、クーズは技術者たちに“ケースNo.26”をシミュレータにロードするよう指示した。」

「訓練開始にあたってクーズはチームのメンバーたちに言った。『OK、みんなよく聞け。このケースはまだ1度もやったことがないので、こっちで何度も何度も正確なタイミングを取っていく。ひとつひとつ確実にやっていくから、俺の指示を待て。』

着陸シークエンスに入ってから3分後、グースが切り札を出した。『OK、やつらにガツンとやって、コンピュータプログラムアラームがどれだけ分かっているか確かめてみろ』

クランツのチームに出された最初のアラームは、まさにアポロ11号が直面することになったコード1201だった。」

「訓練が終わり、反省会の中でクーズは、結果に対する不満をあらわした。

『中断すべきではなかった。着陸を続けるべきだった。

コンピュータアラーム1201は、コンピュータが内部的な優先順位に従って動作しているという意味だ。

誘導システムが働いていて、制御ジェットが噴射していて、乗務員用ディスプレイが更新されていれば、ミッションに重要な作業はすべておこなわれているんだ。』」

 

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